CMOS回路の基礎
CMOSアナログ回路:ソース接地回路
1、ソース接地回路の基本的な特徴
ソース接地回路は増幅回路の基本回路です。各種増幅回路の増幅段で用いられるなど、オペアンプ回路では必須の回路です。また、それ以外の用途としては、スイッチ回路にも用いられます。MOSアナログ回路において、ソース接地回路は主にこの増幅、スイッチの2通りの使い方が特に重要です。
- オペアンプ、アンプなど各種増幅器の増幅段
- 各種反転スイッチ回路
実際にこれらの動作は、動作領域により使い分けることができます。オペアンプなど増幅器として用いる場合は飽和領域にバイアスして使います。なぜなら、非飽和領域ではgmが極端に低くなってしまうからです。また、スイッチとして用いる場合は逆に、非飽和領域で使います。これは出力をH、Lレベルを確実に保つためです。では早速、基本的な動作を確認してみましょう。
2、ソース接地回路のDC特性
Fig.1にソース接地回路でよく用いられる回路例を示します。M1はソース接地回路で、M2、M3はカレントミラー回路で、M1にバイアス電流を供給しています。(a)は回路図、(b)はM1のゲート電圧を0Vから5Vまでスイープしたシミュレーション結果です。シミュレーションは
電子回路シミュレータLTspice入門編
を使います。
(a)回路図 (b)入力電圧スイープ特性
Fig.1 ソース接地回路
この回路でM1のゲート電圧を0Vから5Vまでスイープしていくと、MOSは入力切り替わりVth以上の電圧でONするので、そこからドレイン電流を流し始めます。
Fig.1の場合、約1V過ぎでM1はONし始め、Voutが5Vから低下していきます。最終的にVoutはNMOSのほぼGNDレベルまで低下しています。
この特性から考えると、NMOSソース接地回路は、入力電圧の値により約0V~5Vまで出力電圧を変化できるということです。この形式の場合、例えば入力に0Vを与えるとVoutは5Vとなり、また、入力に5Vを与えるとVoutはほぼ0V、つまり、入力電圧に対し、出力は反転する論理です。これの結果を使うと、入力電圧にほぼ0V付近の電圧や、5V付近の電圧を入力すれば上記2のスイッチとして使えることが分かります。
また、見方を変えると、Voutが電源電圧の半分の電圧、2.5Vになるように入力電圧をバイアスし、その状態で入力電圧を⊿V変化させると出力電圧ももちろん2.5Vを中心に変化します。この考え方は重要です。この場合、ゲート電圧はおそらくVth付近になるため、M1、M2,3はすべて飽和領域で動作し、増幅器として用いることができる構成です。これが上記1でお話しした増幅器となります。
以上のように、同じ構成でも使用する領域により、増幅器、スイッチなど、いろいろな使い分けができます、従いまして、ゲートに入力する電圧は非常に重要です。負荷にもよりますが、これによりほぼ動作領域が決定されます。
3、ソース接地回路のスイッチ
では、上記回路をMOSソース接地回路のスイッチとして用いてみましょう。
(a)回路図 (b)スイッチング特性
Fig.2 ソース接地回路
入力に約0V~5Vのパルスを入力した場合、スイッチとして動作していることがわかります。こういう使い方はCMOSコンパレータの後段などで使われます。また、M2、M3のカレントミラーをPchMOSに置き換え、M1のゲートと共通にすると前節で説明した、インバータ回路の出来上がりです。
4、ソース接地回路の増幅
実際のMOS回路で基本増幅回路を考えていきましょう。
実際の増幅器のイメージをつかむために、先程の入力電圧スイープの結果をもう一度見てみます。
(a)回路図 (b)入力電圧スイープ特性
Fig.3 ソース接地回路の入力電圧スイープ
Vout=2.5Vのとき入力電圧は約0.998Vです。この電圧をDCバイアスとしたSin波を入力してみましょう。1mV振幅、1kHzのSin波を入力します。
Fig.4 ソース接地回路 Vin=0.998V、1mV振幅のSin波を入力したときの波形
Fig.4からわかるように、1mVの入力Sin波が200mV振幅のSin波に増幅されています。通常、今回のようにVin=0.998Vに保つのは無理なので、このような使い方はしませんが、勉強のために実験してみました。
5、ソース接地回路のAC特性
次にこのソース接地回路のAC特性を確認してみましょう。M1の入力に0.998Vのバイアスを与え、入力電圧を変化させたときのAC特性を確認してみます。
(a)回路図 (b)周波数特性
Fig.5 ソース接地回路
Fig.4から分かりますように、低周波では約46.53dBのゲインを持った特性です。
では、実際に計算をしてみましょう。
厳密な計算はシミュレーションする必要がありますが、簡易的に計算したり、実際の特性の値を簡易的・直感的にイメージするには計算が一番です。
ゲインは、Av=-gm(roN//roP)です。
Id=20uA、MOSのksqを、ksqn=14.01m、ksqp=7.828m
λをλn=12m、λp=18mとすると、
Av= - gmN(rop/ron) より
Av= - 125u×1.66MΩ
= - 207.6倍⇒ - 46.3dB
となり、Sim結果とかなり近い値に計算されました。先程のSin波を入力したシミュレーションで、1mVの入力信号が約200mVの出力電圧に増幅していましたが、この計算結果でも約207.6倍のゲインになっており、それが正しいことが確認できます。
以上、MOSソース接地回路の増幅特性やスイッチング特性を確認してみました。
各動作領域を使い分け、最適な回路になるように使いたいところです。
特に今回のMOSソース接地回路は非常に良く使う回路なので、
アナログCMOS集積回路の設計 基礎編
などいろいろな書籍を読んで勉強しておきましょう。
このページの計算で用いているデバイスパラメータや、どうやってそれらを抽出したか?など、その方法は別途まとめた資料を作りたいと考えていますのでお楽しみ!!